『インセプション』見た

見ました。神映画でした。
 ストーリーはだいたい、夢からアイデアや秘密を盗んだり、その逆に夢を通じてある考えを植えつけたりできる指名手配中の主人公コブが、グローバルな大企業の大物サイトーの、ライバル企業会長の息子に会社を分割するという考えを植え付けるろという依頼を、犯罪歴の消去と引き換えに受け、いろんなプロを集めてそのミッションを遂行しようと頑張る、という直線的な流れの金庫破り物でした。 
 で、今言ったような大筋に、ボンボンの息子とその絶対的な父との間のこじれた関係云々の強引な救済といった若干エヴァ的な話や主人公コブとその死んだ妻モルの幻影との決別の話やらが絡んくる。
 それでその金庫破り?は全て参加する人間同士で共有された夢の中で実行されるんですが、その夢には色んなルールや階層構造(夢の中の夢の中の夢の中の夢、みたいな感じで4階層出てきます。階層が深いほど深層意識に近づくらしいです)があったりと割に複雑な環境として設定されていて、コブ達盗人プロ集団達が色々やる、という感じでした。
 で、まあこんな感じで筋と状況説明だけ見ても全然凄そうでもなんでもないわけです。
 どういうことかというと、話の筋だとか環境設定だとか文字に無理やり還元できそうな要素以外の、映画の形式から切り離せないアイデアや要素やイメージがこの映画では非常にたくさん出てきて、それら同士や話の筋が絶妙に相互作用することで素晴らしい映画体験を作り出してるんですね。例をあげればキリがないんですが例えば上の階層で車がひっくり返ってしまい、下の階層の重力場がぐるぐる変化するシーンだとか、夢の中で錯覚を利用してペンローズの階段みたいのを創りだしたりとか、特に第2階層でのアーサーの活躍は最高でした。
 他にも個人的に良かった要素として、冒頭の夢の中でフランシス・ベーコンの絵画が出てくる所があったのですが、ベーコンという画家は具象と抽象の領域侵犯的な、かつとても生々しい絵を描く画家で、そういった点や絵自体の色合いや雰囲気も含めてこの映画ととても良くマッチしていました。(使われてたのは確かこの絵:http://www.fotos.org/galeria/showphoto.php/photo/12911/size/big/sort/1)また、アーサーがペンローズの階段のトリックをアリアドネに説明するシーンでちらっとですがノーマン・フォスターの建築が使われてたり(これ:http://www.fosterandpartners.com/Projects/0958/Default.aspx)という感じで好きな要素がいっぱいあったのも良かった。 
 ホントに見なきゃ凄さは分かんないし感想書く意味殆どない映画だったと思います。
 
 で最後。なんとなくなんですがあの夢の構造というか在り方は建築のメタファーで言えることもありそうな気がして(というか哲学とか他のあらゆるもので語ることがも出来るような映画だったと思いますが)ちょっと考えた所、前本で見たコールハースの複合メディア施設ZKMの提案が思い浮かびました。
 そのZKM案というのは図書館やら音や映像の実験室やらミュージアムやらホールやらといった様々なメディア施設がフロア毎にコアに置かれタワーとして積まれていて、コアの周りを回遊しながらフロアを行き来出来るような感じの建物なっていて、各要素は階層ごとに明確に区切られつつも、それを結ぶ曖昧な領域としての回廊によって互いの要素は相互作用できる、みたいな感じの建物だったわけです。
 インセプションの夢の話の戻ると、第一階層ではドンパチやりながらカーチェイス的アクションを展開してるかと思えばその一層したではトリッキーなサイコサスペンスというか諜報物っぽい事をやっていて、その下ではまた拠点奪還物的な肉弾的なガンアクションが展開され、最後の階層は内面世界みたいになってる。そしてそれぞれが夢の中の人達によって独特の繋がりを持たされている、あるいは実際に重力が変わったりと相互作用している、見たいな感じでだったわけです。
 この夢の階層関係とさっきのZKMはだいたい同じぐらいのバラけ具合なんではないかと思うわけです。バラけ具合というのは要素同士の関係についての事で、もっとどろどろにリゾーム状に溶け出してるような物なら多分伊東豊雄の台北オペラハウス的な建築がありえるだろうし、逆に要素同士がもっとはっきりと分離されてるものなら古くにいくらでもそういう建築があるだろうしという事で、丁度その間ぐらいの感じがインセプションの夢だったりZKMなんではないかと思ったわけです。