『ミッション:8ミニッツ』見た

見ました。
 映画見に行くのそういえば『ツリー・オブ・ライフ』(かなり苦痛だった)以来で、期日が迫ってる卒論からの現実逃避みたいな所もあったんですが、なかなか悪くない映画でした。
 この映画は、シカゴ行きの列車で発生した爆弾テロ事件の犯人を見つけ出し、予告されている次のテロを防ぐべく、そのテロで死亡した被害者達の脳から取り出した8分間の記憶と、彼等の残存した脳機能の一部を利用して作られた「ソースコード」というプログラムによって構築された、事件直前の8分間の列車内を再現した仮想現実に送られた軍人が、乗客の一人になり代わり犯人探しを強いられるという話で、彼が視聴者同様、何の説明も与えられる事無く唐突に爆破8分前の列車で目覚める事から物語が始まり、犯人を見つけるまで何度となくその8分間を繰り返します。なにかこれだけ読むとまどマギとかひぐらしみたいですね…。
 この話は真面目にSFとして見ると結構よく分からない所があって、例えばソースコードの限定的な仮想現実内で何故主人公は事件に関係がない自分の父親に電話できたのかとか、最後に示唆される、仮想現実内の仮想現実という形での無限の入れ子構造も、列車内の事故直前の8分間という限定的なシミュレートを超えて、その外部である「ソースコード」自体を「ソースコード」内でシミュレートしているという事になり、いささか奇妙な気がします。
 とまあそういう事を些細な事として見れれば、かなり面白いと思える映画でもあります。事件の謎解きと、自分自身とその仮想世界の謎解き、あと協力してくれる女性の口説きと、それと並行した、仮想現実が単なる事故前8分のシミュレーションでなく一種の可能世界なのだという事への目覚め等が、2つレイヤーを行き来し繰り返される事で、上手く交錯して進んでいく感じはとても刺激的だったし、繰り返される8分間の冒頭に出てくる、ある種不気味さや不吉さの象徴だった川の映像が、最後の8分間の冒頭ではとても晴れやかな映像に見えるような所や、終盤のストップモーションのシーン、最後の方の、クラウド・ゲートの金属の曲面に主人公達の歪んだ鏡像がいくつも重なって写されるシーンなんかはとてもいい演出でした。
 以前新聞で読んだこの映画の監督のインタビューに、自分はSF好きなオタク、みたいなことが書いてあったのですが、この映画のSF部分やヌルい仮想現実の存在論的な話はイーガンに依る所が大きいように思います。最後の救済も塵理論的な物と解釈することも出来そうです。そういえば、序盤の感じは、個人的に『万物理論』の冒頭の、殺人事件の被害者をナノマシンで一時的に生き返らせ、犯人を供述させようとするシーンが意識させられました。それでもやっぱりハードSFマニアとかからはdisられてそうな気がしますが…。どうでもいいけどこの監督ってデヴィッド・ボウイの息子なんですね。
 なかなか悪くない映画でした。はい。